ケリー基準とは
「勝てる賭け(期待値がプラスの投資)があるとき、毎回いくら賭けるべきか?」という問いへの数学的な答え。1956年にベル研究所のジョン・ケリーが発表。
たとえば、コイントスで表が出たら2倍、裏が出たら全額没収というゲームがあるとする。期待値はプラスなのに、「全財産を毎回賭け続ける」と、1回でも裏が出た瞬間に破産して終わり。一方、毎回「1円だけ」賭けても利益はほとんど増えない。最適な賭け金はどこかに存在するはず。これを数学的に導き出したのがケリー基準。
公式
f* = (p × b - q) / b- f* : 資産全体に対して賭ける割合(最適比率)
- p : 勝つ確率
- q : 負ける確率(= 1 - p)
- b : 勝ったときの利益倍率(1賭けたら何倍になるか)
具体例: 勝率60%(p=0.6)、負けたら掛け金を失い、勝ったら掛け金と同額の利益(b=1)の場合、f* = (0.6 × 1 - 0.4) / 1 = 0.2。毎回資産の20%だけ賭け続けるのが長期的に資産を最大化する最適解。
なぜケリー比率を超えると危険か
ケリー比率を超えて賭けると、短期的には資産が増えることもあるが、長期的には必ず破産に向かう。これは「時間の非線形性」の問題。
損失と利益の非対称性:
- 資産が +50% になってから -50% になると、元に戻らず -25% になっている
- 資産が +100% になってから -50% になると、ようやくトントン
損失のダメージは利益より大きいという非対称性があるため、過度なレバレッジは長期的には必ず資産を蝕む。ケリーの公式はこの非対称性を数学的に組み込んでいる。
タレブとスピッツナゲルの文脈
タレブの思想の核心は「テール・リスク(極端な悪い出来事)で破産しないこと」。ケリー基準と組み合わせると:
普通の投資家がやりがちなこと:
- 「期待値がプラスだから」と信じて、大きなポジションを取り続ける
- まれに起きる大暴落(ブラック・スワン)で壊滅する
ケリー基準 × タレブ流の考え方:
- たとえ期待値がプラスでも、破産リスクがゼロになる賭け金の上限が存在する
- ケリー比率以内に抑えることで、どんな連続する不運にも資産がゼロにならない
スピッツナゲルの Universa Investments も、ポートフォリオの大半は安全資産に置きつつ、ごく一部だけをテール・リスクヘッジ(大暴落時に爆発的に儲かる仕組み)に使う戦略をとっており、これはケリー的な「破産しない範囲で最大化する」という発想と一致している。
ハーフ・ケリー
実際の金融の世界では、ケリー比率をそのまま使うのはリスクが高いとされ、ハーフ・ケリー(計算した比率の半分)を使うのが一般的。
なぜなら、現実の投資では勝率や期待リターンを正確には知ることができないため、過大評価するリスクがあるから。半分にすることで資産の最大化速度は少し落ちるが、リスクは大幅に減る。
まとめ
| やりがちな失敗 | ケリー基準の教え |
|---|---|
| 賭けすぎ: 「期待値プラスだから全力」 | 長期で必ず破産に向かう |
| 賭けなさすぎ: 「リスクゼロで安全」 | 資産が増えず機会損失 |
| 最適: ケリー比率を守る | 長期で資産が最大化される |
一言で言えば、ケリー基準とは「生き残りながら勝つための数学」。タレブが口癖のように言う “Don’t go bust(破産するな)” という哲学を、数式として表現したものがケリー基準。